ある彫刻家の芸術論と教育論

坂井氏(彫刻家)とは、かれこれ7年の付き合いになるだろうか。

元々、父の知り合い(彼が私の父のことを実の父のように慕っていた)であり、二人だけで会うということはなかったのだが、一昨年、父が亡くなってからは、一緒に食事をしたり、美術館に行ったり、一泊二日の小旅行に行ったりするような仲になった。

年齢は一回り以上彼のほうが上であるが、今ではお互いに“無二の親友”と呼べるような、かけがえのない存在になっている。

彼の仕事で、世間に一番インパクトを与えたものとしては、ポルトガルの宣教師である、ルイス・フロイス像の制作がある。

ルイスフロイス像 長崎 – Google 画像検索

たくさんのニュース番組、歴史ドキュメンタリー番組、クイズ番組で取りあげられたルイス・フロイスは、戦国時代の日本で宣教し、織田信長や豊臣秀吉らとも会見したことで有名だが、どんな顔(写真や絵)をしていたかの資料は残されてない。

ところが、彼が銅像(顔も含め)を制作したことで、ルイス・フロイスという人物の顔が、世界で初めて公開されることになったと話をうかがった。

…そう思うとスゴイ。

また、銅像以外ではメダル制作を生業とされており、天皇家の記念メダル、オリンピックの公式メダル、プロ野球優勝時の記念メダル、大企業の記念金貨、記念プレートなど、凄まじい制作実績(作品の質、量ともに)がある。

本日、そんな彼のアトリエにお邪魔した。

写真を撮影していいか尋ねると、納品している企業との契約上、それは勘弁してくださいと申し訳なさそうに言われた。

たくさんの作品に囲まれながら、人生や芸術について語り合う。

ただし、語り合うと言っても、私が質問したことに彼が答えるような形式に自然となってしまう。

まるで、インタビュー。

せっかくなので、印象に残った言葉をメモしておいてものの中からいくつか紹介させていただこうと思う。

一つ一つの言葉が、命を削るような作品制作の中で生まれたものである。

 

彫刻家の言葉

彫刻と自然

人間が作るものは弱い。故に大自然の中に作品を展示する場合、完全に負けてしまう。

 

造形が単純なものほど力強い。そして、単純とは、大事なもの(本質)のみ残すことである。

 

モデル(人間)も大自然の一部であり、研究対象である。モデルを借りて、モデルの向こうに何を見るか?である。

 

彫刻と生命力

芸術に個性はいらない。必要なのは存在感であり、生命力を感じられる作品であるかどうか?である。

 

(彫刻においては)顔も手足も衣服も持ち物も、すべてを一つの塊(生命体)としてとらえるようにしている。

 

作品と向き合う時、自分の人生(生き方)が問われる。

 

教育について

親の感動している姿を見せるのが一番の教育。ただし、何で感動しているのかが問われる。本物の価値で感動しなければならない。

 

子どもが懸命に作った作品に対して「じょうずだね」と言うのは最悪。上手とか下手とかはどうでもいい。「◯◯ちゃんの思いが込められているね」と言ってあげるべき。

 

先輩について

後輩を助けてこそ先輩である。しかし、現実には先輩という立場を利用して後輩にえばったり、こき使う輩が多い。

 

本気で生きている人間には誰も(先輩も)勝てない。本気とは、時間とお金とエネルギーを、大切な価値のために使っているか?ということ。

 

さて、語り合っていく内に、驚きの事実(私にとって)を聞き出せた。

意外や意外、なんと無類のアニメ好きだと言うではないか。

特に、ディズニーやジブリの映画は、それぞれ数十回は観たというくらい熱狂的なファンだという。

私が「アニメオタクだったんですね?」と言うと、「オタクなんてもんじゃないですよ」と酒井さん。

「と、言いますと?」

「僕の場合、好きすぎて作品の世界を現実化させますからね」

なるほど。納得である。

また、アニメ作品だけではなく動物モノの映像作品も大好きで、少年時代には“野生の王国”を、テレビにかぶりつくようにして観ていたという。

懐かしの、“ムツゴロウ動物王国”も全ての放送をビデオ録画するほど大好きで、番組を観ながら犬などの動きを観察して、作品制作に活かしていたとのこと。

ムツゴロウ 犬 – Google 画像検索

坂井さんにとっては、ディズニーアニメやジブリアニメも、ムツゴロウの動物王国も、全てが作品を制作する研究材料となる。

ちなみに、現在は仕事の合間に、こんな作品を作っている。

仕事として制作依頼されたものを作るよりも、仕事ではない作品(自分が本当に作りたいもの)を作っている時が、至福の時間だと言っておられた。

仕事で彫刻を作り、趣味でも彫刻を作る。

次元は異なるが、私も仕事として文章を書いたり読んだりしつつ、疲れた時は、趣味として文章を読んだり書いたりしている。

彼の、作品制作に対するひたむきな姿勢と、溢れんばかりの熱情にふれ、襟を正し、背筋が伸びるような思いで帰路についた。

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